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趣味を通して感じた事

第76回 耿 暁鋼(2014.07.20)

私は、仕事を趣味にしているようなものですが、もうひとつ熱中している趣味があります。
それは盆栽です。

ご存知でない方も多いと思いますが、いい盆栽というのは、バイオリンと同じように、どの時代に誰が所有していたかという記録が残っています。中には徳川家康や歴史上の著名人が所有していた盆栽も今もなお誰かの手によって大切に育てられています。
ひとつ残念なのは、もう少し若い頃から始めていれば良かったと言うことです。いい盆栽を育てるには、長い時間と毎日の手入れが必要不可欠なのです。そう思って小学生の子供たちに勧めてみますが、中々うまくはいきません(笑)

さて、盆栽を語り出すとキリがないので、今回は樹ではなく、盆栽が入れられている鉢に着目してお話ししてみたいと思います。盆栽に鉢は非常に重要です。樹を鉢に入れて初めて、ひとつの作品となるのです。

花梨の木 樹齢60年~紫泥袋式楕円鉢花梨の木 樹齢60年~紫泥袋式楕円鉢

盆栽の世界では、一般的に中国の鉢が好まれ、高値で取引される事が多いです。
いい鉢というと、模様が繊細で、精度が高く完璧なものをイメージされるかもしれませんが、実は一概にはいえません。どちらかと言うとその逆で、少し歪みがあったり、線が曲がっていたりするものが好まれたりします。
いい意味での適当さや自然な歪みが『味』となり、盆栽の樹の自然なカーブにマッチして樹の良さを引き立てることがあるのです。

これはどこか、バイオリンの世界にも通じるものがあるように思います。

精度がよく、左右対称で美しい楽器が必ずしも評価されるわけではなく、例えばイタリア人のいい意味での適当さや陽気な国柄が生み出した楽器が好まれたりします。イタリアの楽器が一般的に明るい音と表現されるのも、作者の適当さや陽気さが音にまで現れているのかもしれません。

完璧なものが必ずしも評価されるわけではないというのは、面白いところでもあり、難しいところでもあるように思います。

盆栽の世界でもバイオリンの世界でも、適当さと繊細さのバランスをうまくとりつつ、より良いものを作り出したいと日々考えながら仕事に趣味に明け暮れる毎日です。

 

次回は8月5日更新予定です。