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「偉大なヴァイオリン製作者天才ヤコブ・スタイナー」について

第197回 杉本 有三 (2020.3.5)

氏はアマティ、ストラディヴァリ、グァルネリなどクレモナの名工と同列に語るべき唯一のイタリア人以外の製作者であり哀しくも孤独な生涯を送っている。誕生の日付は明らかではなく、およそ1621年チロル地方の生まれと思われアンドレア・アマティが亡くなり既に40年近く経った頃であり ヒエロニムスやアントニウスが仕事をしニコロは修行中でストラディヴァリは未だ生まれていない頃でした。氏の楽器はE、A線は温かみのあるフルートのように響き、最高音域でも決して金切り声にならず、D線はオーボエのように温かくG線は名人が柔らかく吹くフレンチ・ホルンのような高い評価を得ていた。ヨハン・セバスチャン・バッハの遺品の中にはスタイナーのヴァイオリンもあり、モーツァルトも氏の楽器を愛していた。その音色の豊かさに独奏にはアマティよりスタイナーの楽器が好んで用いられたようだ
ヴァイオリンの表板のアーチングは強く楽器を水平に持つと2つのf字孔を通して向こうが見えるほどでありクレモナのどの人とも異なっている。加えてエレガントで美しいスクロールは氏の代名詞とされている。彼は宮廷付きヴァイオリン製作者に任命され宮廷楽員の称号まで与えられた。だがスタイナーは若かりし頃に結婚して8人の娘と1人の息子があったが、ある商人に氏の貧困時代の生活費を貸したままと言い出し返金を求め訴えをおこされたり 強大な権力を持ったカトリック教会とも悶着をお越し告発され投獄されてしまったりと、また義父が借りた大金の保証人になっており皇帝に嘆願するも無駄であった。やがて金のないスタイナーは精神に異常を来たし狂人として縛りつけて置かねばならなくなり1683年に亡くなっている。62歳であった。
生存の頃はアマティやストラディヴァリよりも高価な値段で売られていたが細工のまずいコピーが数多く出回ったため、氏の名声は今ではあまり高くないが、本物のスタイナーには細工の素晴らしい物が多い。その個性的な楽器は蒐集家に大変愛されてはいるが悲運の天才製作者としてその名は今なお語り続けられています。

ヨーゼフ・ヴェクスバーク著「ヴァイオリンの栄光」
渡辺恭三著「ヴァイオリンの銘器」から抜粋いたしました。