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バイオリン製作においての、オリジナル性とは?新規性とは?

第261回 伊藤 丈晃 (2023.1.20)

バイオリン製作において、一人の作家が作った楽器が固有の作家性を持つという場合を考えると、その製作者が決定するバイオリンの独自の特徴、デザインの選択、そして全体的な雰囲気がどの様に立ち現れているかが重要なのではと思います。 

これらには、木材の選択、スクロールの形状と彫刻、アーチやプレートの厚みとグラデーション、そしてニスとその色合い質感など様々な要素が含まれます。製作者がこれらの要素を組み合わせて、独自の個性やビジョンを反映する独自の楽器を作り上げる方法が、その作家性をかたちづくっていると考えられます。 

また、何より作家性に関わることで重要なのは、その楽器がもっている固有の音ではないでしょうか。 

こちらも、製作者の木材の選択や厚みなどに起因するのはもちろんですが、それらに加えてサウンド・ポストやバスバーの形状、駒の特性、取り付ける部品の性質など、想像以上に小さな要素でもその全てがバイオリンの音に影響を与えています。 

その意味で、バイオリンの音は、製作が50%、調整やセッティングが50%くらいだと自分はいつも考えています。 

今日は、その作家性を考える時にも重要な要素となってくるであろう、オリジナル性と新規性について自分なりに一度言葉にまとめてみようと思います。(たまには、自分の頭の中を整理してみようと思った次第であります) 

まずは、オリジナル性とは?です。
 

オリジナル性は、楽器が持つ独自性や個性を指します。それは、形状やデザイン、素材、演奏性などが、他のバイオリンと異なっていることを意味しています。オリジナルデザインのバイオリンは、個性的でユニークな楽器のことを指す場合が多いのではないでしょうか。 

そして、次は新規性とは?です。
 

新規性は、楽器が持つ創造性や革新性を指します。それは、新しい技術や材料、新しいアイデアを取り入れ、伝統的なバイオリンから逸脱したものを指しているともいえます。新規性のあるバイオリンは、音質や演奏性を向上させるだけでなく、見た目にも斬新さを持っている楽器を指すのかもしれません。 

また、オリジナル性と新規性は、互いに補完しあう性質を持ちます。伝統的なバイオリンの形状に新しい材料を取り入れることで、音質を向上させながら、オリジナル性を持ったものを構想するアプローチは可能性としてはあり得るのだと思います。
 

それから、新規のデザインを持つバイオリンは、新しい技術や材料を取り入れることで、演奏性を向上させることができるかもしれません。例えば、新しく指板の形状を変更することで、演奏性を向上させることが可能になるかもしれません。あるいは、演奏時の手の動きが変わり、新しい演奏スタイルを獲得できるかもしれません。また、新しい材料を使用することで、指板やネックの感触を変えることができるなど、演奏者のフィーリング(音楽)も変化するのではないかと思います。 

つまり、プレイヤーにとって新しい演奏の体験を提供できる可能性を秘めている領域なのかもしれません。
 

しかしながら、オリジナル性や新規性が、音質に悪影響を与える可能性も同時に考えなくてはなりません。
独自の形状やデザインを持っているバイオリンは、音質にマイナス(好ましくない)の変化を生じる可能性も常にあるということです。例えば、新素材を使用したり、伝統的な形状から大きく変化している場合、トーンカラーが異なるなど、音質のバランスが崩れることが考えられます。おそらく、ただ見たこともないとか、風変わりで感覚的に弾けないほどの逸脱した(アバンギャルドな)デザインは、今のところ、ほとんどの演奏家からは歓迎されていないのが自明だと思います。

バイオリンのデザインにおいては、オリジナル性と新規性が重要であると同時に、それらが演奏性や音質に与える影響も十分に考慮する必要があります。それらを慎重に取り入れ、理想のバイオリンをデザインすることが大切なのではと考えています。