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夏の風物詩から

第273回 西村 祐司 (2023.7.20)

7月に入ると京都は祇園祭でにぎわいます。

様々な祭事がこの1ヶ月間に行われるのですが、何といっても最大の見所は17日と24日におこなわれる山鉾巡行で、生でみるとその絢爛豪華な文化芸術に圧倒されます。

山鉾は全部で34基あり、このページでは説明しきれませんので、ご興味のある方は実際見てみるか、祇園祭ウェブサイトをご覧ください。
そんな大小色々な山鉾のなかで、職業柄注目してしまう山鉾のひとつに、木賊山(とくさやま)という山があります。世阿弥の作とされる謡曲「木賊」を題材にした山で、別れた子を思いながら木賊を刈る老翁の姿が、御神体人形として掲げられています。そして御神体のまわりには木賊が生い茂っています。

 


なぜ注目してしまうのかというと、木賊は砥草とも書き、古くからその茎が木地の磨きに使われてきたからです。いにしえのバイオリン製作家たちが使っていたかどうかはわかりませんが、私自身は白木の状態の最後の磨きに使うことがあります。製作を習った当初は紙やすり(サンドペーパー)を使っていました。この磨きがニス塗りの出来を左右するとかで重要なのですが、最近では木の質感を大切にしたい思いが強く、サンドペーパーを多用することをためらうようになりました。磨きすぎは木を殺してしまいますが、木賊で程よく整えるとわずかに木の凹凸が残り、仕上がりにあたたかな味わいが感じられるように思います。
後世、自分の作った楽器が長く使われ、そのようなあたたかな味わいがより一層感じられるようになることを期待しながら、日々製作をしております。