1. ホーム
  2.  > 連載コラム
  3.  > 第40回 大塚 紀夫(2012.09.20)

ストラディヴァリは越えられないのか?

第40回 大塚 紀夫(2012.09.20)

いきなり大仰なタイトルで始まり本人も恐縮してしまいますが、弦楽器作りを志す者としては避けて通れない永遠のテーマに違いありません。

ヴァイオリンは16世紀の初めにはその基本的な形状も定まり、その後ストラディヴァリにより、音響的にもまたルックスの点においても完成されたと言われています。それから以後この300年の間、多くの楽器作りや研究者がそれを越えようとしてさまざまな試行錯誤を繰り返して来ました。寸法、板の厚みやふくらみを精密に模倣したり、X線にかけたり、ニスの成分を分析したりしてなんとかストラディヴァリの楽器を再現しようと試みました。しかし、未だ誰もそれに成功してはいないようです。

近頃思うには、このような模倣や分析をいくら繰り返してみてもストラディヴァリに近づく事は無理なようです。100メートルを9秒で走れる人に、10秒でしか走れない人がいくらその走り方を尋ねてみても走れるようには成れないのと一寸似ています。9秒台のランナーの世界と10秒ランナーのそれは全く別世界なのでしょう。

ストラディヴァリは93歳まで生きて、週に1丁の楽器を作り、生涯で2000丁以上の楽器を作ったと言われています。(その間に10人もの子供も作っています) 週に1丁というのは驚くべき仕事の速さです。ある工程は弟子にやらせたのだろうという人もいますが、あまり弟子には自分の楽器を任せなかったようです。簡単な食事と寝るとき以外はほとんど仕事場に居たようですから、彼の熟達した腕と勤勉をもってすれば十分可能だったでしょう。

真似るとすれば彼の楽器ではなく、この生活でしょう。このような生き方をし、これだけたくさんの楽器を作ってみないことにはストラディヴァリの秘密を垣間見ることはできないように思います。子供の頃からこの世界に身を置いていたストラディヴァリと違って、30才過ぎてこの道に入った私にはそれだけの時間を用意できないのが残念ですが・・・。

次回は10月5日更新予定です。