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ありきたりな心の支え

第206回 鈴木 公志 (2020.7.20)
鈴木 公志

久々のコラムです。

前回のコラムから1年半くらい経っていますが、なんだか最近の数ヶ月しか記憶にない様な、不思議な時間でした。

ここ数ヶ月の新型コロナウィルスの影響で社会が大きく様変わりし、これほど多くの人が、これほど短期間で生活様式を変える事を余儀なくされたなど有史以来初なのでは?と思っています。

この時期に人との接触が制限され、内省的になりやすかったと思います。
その結果、未知なる物への恐怖、先行きのわからない不安などから精神的に参ってしまった方も多かったのではないでしょうか。

そんな時に強いなぁと思う人は、何かを信じている人でした。
信じる事というと宗教などがすぐに浮かびます、それはまさしく「信じる」事の代表格といってよいでしょう。
ただ宗教でもそれ以外でも「救いを得る為に信じる事」と「信じる事で救われる」という事に違いがあるように感じます。

この時期に音楽に救いを求める、という事は誰しもが多かれ少なかれあったのではないでしょうか。
僕もそのうちの1人でした。
しかしそれはひと時の安らぎを音楽に求めること、「救いを求める」ための「音楽への信仰」だったように思います。
決してそれが悪い事とは思っていません。
ですが、深く、長いあいだ音楽と寄り添って生きてきた音楽家は、音楽そのものに救いを求めていない様でした。
それは音楽と寄り添う事で、結果的にその人の芯となり、支えとなっているようです。
その姿を他者が見ると「(音楽に)救われている」ように映っているのではないでしょうか。

そう思うと、音楽家にとっての音楽、その様な存在を待つ事が、全ての人の救いになるのではないでしょうか。
たとえそれは仕事にしていなくても、上手でなくても、その人が丁寧に寄り添ったことなら何でも良いのでしょう。
グローバルなんだかミニマルなんだかわからない世界になりつつあります。
この不安な世界へと踏み出すには、常にお守りの様に、自分の大切な事を懐に忍ばせていると良いのでしょう。

 

最後に毎回載せている最近の読書(と言いながら前回コラムには載せてませんが…)

イタリア人物理学者による時間に関する研究をまとめた本です。
専門的な数式などを極力避けながら、時間というものを現代物理学の観点から説明された本です。
数式を使わず言葉で物理学の概念を伝えようとする、その結果豊かな表現は魅力的な文学となりました。
物理学への理解が覚束ない頭にも、時間という当たり前と思っているもの、それが姿を変容して、それ以外の自明だと思っていたものまでが根本から揺らいでいくミステリーの様に面白く読めてしまう素敵な本です。
しかも帯の推薦文が、今や日本を代表するSF作家の円城塔さん、というのも素敵ですね。