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様々な選択肢を経て

第289回 糟谷 伸夫(2024.03.20)
ヴァイオリンの製作を志して、いつの間にか25年も経っていました。
主に4人の先生から製作を学び。助言をいただいた製作者の数は数え切れません。
 
様々な製作法や流儀、数々の工夫を先輩製作者から教えていただきました。
もちろん教えてもらった通りに製作することが最も重要かつ困難なことではあります。が、
 
ときに、一つの工程に対し複数の工法が示されたり、複数の助言を頂いて、
教えて頂いたこと同士に矛盾が生じたりすることがあります。
一つ一つ作業工程を重ねる中でこの矛盾が起きるのはむしろ日常茶飯事です。
 
一つ一つの助言は合理的で納得のいくものばかりだと思っています
しかし、目下の工程でどの方の意見を取り入れて作業すべきなのか、
次の工程にも影響するその選択は複雑の極みです。
 
細かな工程の一つ一つが選択の連続であることは避けられません。
 
そのため、少なくとも楽器製作に取り掛かる前に今回の楽器をどのように仕上げたいか、
完成までのトータル的なコンセプトを決めて作業にかかるべきと言われます。
 
 
今、私はバロックヴァイオリンの製作を進めています。
製作開始前のコンセプトが特に重要な楽器になります。
 
①バロック時代のオリジナルスタイルにするのか?
②モダン化された後、バロック仕様に戻されたスタイルにするのか?
 
上記の二つは解りやすい最初の分岐点です。
 
①は現代のヴァイオリニストには扱いが難しいです。
しかし、本来のヴァイオリンが誕生したそのままの姿をしています。
②は様々なタイプがあります。モダンの特徴をどの程度残すか、程度により外見も様々です。
 
 
私は今回は②を選択しました。
そこから、モデルとなる既存の楽器を参考に
 
 
〇ネックの長さは?
〇ネックの太さ、厚さは?
〇胴への仕込み方は?
〇指板の長さ、スタイルは?
〇指板の素材は?
〇駒の高さ、弦の取り付け角は?
〇駒のスタイルは?
〇テールピースの素材、スタイルは?
〇f字孔の幅は?
〇魂柱の太さは?
〇力木の長さ、幅、強度は?
 
 
書き出すとまだまだきりがないのですが、選択の連続です。
 
なぜそれを選んだのか、実際、選択肢が多すぎてその根拠が希薄と思われる場合もあるにはあります。
師匠の助言などはもはやそれだけで強力な根拠になります。
 
製作を開始するとさらに、材料の性質を加味したり、微調整を繰り返したり、どのような工法で調整するかなど
何とか当初のコンセプトを実現しようと、更なる選択を迫られます
 
自身の製作楽器のみならず完成した楽器を見るとき、
これは選択に次ぐ選択を重ねられ膨大な可能性の中から作為と無作為の
結果としてここに現れた姿なのだと、背後に顕在化しなかった選択肢と可能性を秘めてここにあるのだと
そんな風に思い眺めたりします。
 
 
製作歴25年目
ヴァイオリン製作のifに思いをはせるのもたのしいです。
 
 
糟谷弦楽器工房
糟谷伸夫