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宮城県加美町「音楽のまちづくり」と2 拠点生活

第272回 安冨 成巳 (2023.7.05)

関西弦楽器製作者協会の安冨と申します。
私は現在宮城県の加美町というところにある国立音楽院宮城キャンパスヴァイオリン製作科で講師をしておりますが、
加美町は「音楽のまちづくり」を進めていて、ヴァイオリン製作の分野にもとても注力頂き、一昨年より日本人の弦楽器製作者をテーマとした催しを企画担当として行わせて頂いています。

人口が多い町ではなく弦楽器を演奏される方は少ないため、このようなイベントのPR 対象はやはり町外の都市圏(仙台や東京)の方となります。映像作成や東京でのサテライトイベントの実施など、町外に向けて加美町の様々な取り組みを発信していく事に注力して催しを進めています。

町内にはバッハホールという音響の素晴らしいホールがあるのですが、意外と町民の方、特に若い世代の方はホールに足を運んだことがないという方がほとんどだと聞き、町外に発信するだけではなく、まずは町内の方に音楽のまちづくりの取り組みを認知・評価してもらい、楽しんでもらう事も大切なことだと感じています。

そのような中、一昨年より加美町内の小学校を回ってスクールコンサートを行う事を始めました。
幸い私自身もヴァイオリンとヴィオラの演奏をそれなりに出来るので、私ともう一方 学校の講師の先生にピアノ伴奏をお願いして実施しています。

ただ楽器を演奏するだけでなく、せっかく楽器製作者なので楽器がどういう風に出来るのかや、演奏家だけでなく楽器を製作したり修理調整など演奏家をサポートする仕事があるという事の紹介、鉋の削り体験なども織り交ぜながらコンサートを行っています。

回る前は、子供たちに向けて一方的に発信してしまうだけになることを心配していましたが、演奏を聴きながら体を動かしてくれたり、演奏が終わった後みんなでかけよってきて楽器の作り方なんかにとても興味を持ってくれたり、子供たちの感度の高さを感じる事となりました。

私は最近東京と加美町の 2 拠点生活を行っていますが、そのような生活を進めると改めて加美町、自然豊かな地方で過ごすことの良さを感じるようになりました。

 

ヴァイオリン製作や修理の作業も、東京よりも加美町の自然の中の工房で行った方がはるかに捗りますし集中もできます。
加美町の子供たちをみていても、自然から感受性を育まれている事を感じます。

ただ、やはり文化の中心地は東京や大阪(都市圏)だとも感じますし、
たまにそれらに触れないと感性が鈍ってしまう事も感じてしまいます。若者が都市圏に集まるのはそのような観点から見られる現象ではないでしょうか

地方創生を進めるにあたって産業の促進だけでなく地方でも文化的側面の発信が行われて
地元の人がその文化的刺激を受けれるようにすることも大切になってくるのではないかと思います。

現在は働き方改革も進み、交通手段や情報の享受の仕方も発展して2拠点生活がより簡単に出来る時代になっていると感じます。
都市圏と自然豊かな地方を2拠点生活は人の感性の面でもとても良いのではないかと思います。
文化を発信できるような人たちの2拠点生活が進めば、地方創生も一歩進んでいくかもしれません。

まだ日本では人に職業や所在地を聞かれたときに一つの仕事で、一つの場所に住んでいることが当たり前みたいな価値観がある事に辟易とすることが多いですが、多様なの仕事を多様な場所で行うのが当たり前の社会になると面白いなと思います。