1. ホーム
  2.  > 連載コラム
  3.  > 第192回 鈴木 郁子 (2019.12.20)

吉野杉のバイオリン

第192回 鈴木 郁子 (2019.12.20)
鈴木 郁子

2015年から奈良県の「奈良県産スギ材によるバイオリン開発プロジェクト」のメンバーととなり、バイオリン3本ビオラ1本チェロ1本の製作に関わらせて頂いた。

私はイタリアクレモナで弦楽器製作の修行をした。クレモナでは1600年代から続く伝統であり、途中難しい時期もありながらその時々の製作者同士が切磋琢磨しながら「より良い楽器を」と受け継がれてきたものを教えて頂いた。それは材料の選択も含めてであり、材料によって良い膨らみや厚みなども伝えられてきたものを受け取り自身で改良していった。出発点は常に先人達の作り上げたデータに基づいている。それが伝統継承というものであろう。

イタリアで教わった楽器の材料はアベーテロッソ(北イタリアのスプルース)、バルカンカエデが主である。そのアベーテロッソの部分(表板、バスバー、魂柱)を吉野杉で製作した。

吉野杉の楽器は様々な科学的実験の裏付けを元に製作され音響試験も行われた。アベーテロッソを使用した楽器と同様の音の拡がり方を示すデータが出た。

科学的試験では難しい感覚的要素のとても大きい“音色”という点において、吉野杉の楽器は特有なものを持っていると私は思う。
楽器達は奈良県の所有で、1本目のバイオリンのお披露目コンサートは梅沢和人先生に弾いて頂いた。その後も澤和樹先生、大阪フィルハーモニー交響楽団のブレーメンカルテット(田中美奈先生 力武千幸先生 松本浩子先生 松隈千代恵先生)などの素晴らしい演奏家の方達に演奏して頂いている。私も何回かコンサートにて音を聞くことができ、良い成長をしていることを嬉しく思っている。まだ生まれたばかりの楽器のこれからが楽しみである。

度々仕事で奈良県を訪れるようになり、会議、打ち合わせやコンサートの前後に散策もした。
吉野山、キトラ古墳、東大寺、橿原神宮…奈良の歴史は綿々と続いている。街自体が日本の歴史と伝統である。それは色々なところでしっかり受け継がれ生き続けている。
だんご庄のおだんご、豊臣秀吉が愛したという「御城之口餅」、お水取りのお菓子「開山良弁椿」などなど、歴史を感じさせる美しく美味しいお菓子に出会うことも出来た。

奈良のことが改めて好きになった。
「奈良はこのままでいてほしい」と私は思う。

 


だんご庄のおだんご

 

豊臣秀吉が愛した「卸城之口餅」

 

お水取りのお菓子 「開山良弁椿」