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楽器を作るということ

第287回 鈴木 徹(2024.02.20)

2004年にコントラバスを作る、と決めてクレモナの弦楽器製作学校に入ってから気づけば今年で20年。

 

トランク1つ(アンティークショップで5,000円だった皮の鞄)でクレモナに行き、2ヶ月後初めて住んだ家から引っ越すときにはワゴン車いっぱいの荷物になっていました。

 

学生の時はとにかく美しい物を見よう、良い音を聞こうと思ってクレモナの市庁舎のストラディバリなど市のコレクションが置いてあったへやに時間があれば通っていました。

街を歩いていても、これは絶対ストラディバリも見てたに違いない、と勝手に思って壁の中の化石(残念ながら今はもう見られない…)や500年以上前の落書き(死刑の前に書いていたとの事…)、ポー川の夕日などそういったものからも何か良い音を作り上げるヒントがあるのではないかと思い、いろんな物を見ていました。

2011年、自身の工房を開けてからは集中して製作できる環境を整えて、午前中は弓の工房で働き、午後は自分の工房でコントラバスを作り、夜になったら飲みに行くという楽しい生活をしていました

 

2012年、初めてアメリカへ行った時にアメリカという国の素晴らしさ、なんというかOpen mind, 一人一人を個として、独立した存在として見るという感覚、に驚かされ、以後ほぼ毎年行くようになりました。

VSA(Violin society of America)やISB(International society of bassist )のコンペティションに参加したりシカゴのSchool of violin making でコントラバス製作の実演、New Yorkの友人のお店でのコントラバス製作など色々な経験をしました。

 

そして、日本では2016年に工房を開けて活動を始めました。
日本には沢山の古くて良いコントラバスがあるのでそういう楽器から色んなことを学びたいと思い自分の場所を持とうと思ったのです

その工房も火事にあったり、その後の物件でも不良物件に当たったりと色々とトラブルはありましたがそれもまた良い経験だったと思います。

 

そして今、世田谷区に工房を構えて修理や製作をしているわけですが、思えばコントラバスを作るということを通して本当に色んな人に出会え、色んな経験ができてその一つ一つが良かったなと思えています。
そう言ったことや思いというのは確実に、今使っている楽器に反映されると思うし、また自ずとそうなるものである、とも思います。

 

これからもまだまだ色んなことを経験して良い楽器を作れるようになろうと思います。