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ニカワ接着とボンド接着について

第256回 河辺 恵一 (2022.10.20)
河辺 恵一

ヴァイオリンの歴史は、およそ300年とよく言われます。 今日でも演奏で使用されている楽器の中では、ヴァイオリンは本当に長い年月に渡り使用されています。 しかし、そんなに長く実演奏で使えるのはなぜなのでしょうか? 
ヴァイオリンが木材で作られているからなのでしょうか? 昔の良い材質が使われているからなのでしょうか? それとも、人が手を加えながら長期に渡り、大事にされているからなのでしょうか? 私はどれも正解なのだと思っています。 更に私が付け加えるのであれば、表題の通りニカワで接着されていることにも大きな意味があると考えてます。 

・ボンドで接着されていたTipを剥がしたところ。

100年前、300年前という時代には、現在のようなケミカルグルーなどは存在しません。 現在の代表的なもので申せば、瞬間接着剤といった時短接着が可能になったのは、ほんの50~60年くらい前からのことです。 それまでは当たり前のようにニカワが使われていました。 現在では多くのケミカルグルーが存在していますし、現在のヴァイオリン業界でも使れています。

・エボニーライナー材をニカワで接着する準備。

しかし、ストラディバリウスやグァルネリ、ガダニーニ、ガリアーノ、プレッセンダといった時代のオールド楽器にも、ケミカルグルーを使って修理、修復などをするのでしょうか? 恐らく使われていません。 ではなぜ、高価な楽器には使われないのでしょうか? それは、それらの楽器を扱う楽器職人が使ってはいけないと考えるからです。 それはなぜ、ケミカルグルーを使ってはいけないと考えるのでしょうか? 
その理由は、皆様がお世話になっている楽器職人の方に是非尋ねてみてください。 時短作業で使うケミカルグルーを使っても良い楽器の修理と使ってはいけない楽器の修理の違いについて。 またはニカワを使った接着とケミカルグルーを使って接着した場合の違いについてなど。 身近な楽器職人の生のご意見を是非訊かれてみてください。 

・エボニーライナー材をニカワ接着の固定するところ。

私がこれまでに経験してきましたことからお話し致しますと。 接着する時に、その間に存在する接着物質の被膜が薄いほど接着力は高くなります。 楽器においても弓においても、接着部分の被膜を一番薄くすることが出来るのは天然のニカワです。 ケミカルグルーには硬質系と軟質系がありますが、どちらを使ってもニカワ接着ほどの極薄の接着被膜で接着することは出来ません。
またニカワは水溶性なので、水分を含ませることで接着力を弱めて、木材への負担を軽減させて剥離することも可能です。 剥離面に残っているニカワは、水分を含ませることによって、きれいに除去することもできます。
しかしケミカルグルーでは、浸透性のあるタイプの場合には、その木材も硬化させてしまい、木材の天然質が失われてしまいます。 更には、接着面に残るケミカルグルーの残存物を取り除く作業には、ニカワ以上に手間を掛けて注意して取り除かなくてはなりません。 場合によっては削り落とすか化学薬品を用いて溶かすような作業が必要な場合もあります。 

いずれにしてもそれらは、オールド楽器には用いられることの無い方法なのでしょう! ケミカルグルーを使った接着での時短の代わりに、木材の材質の寿命も時短(短く)させてしまいますから。 1700年代のオールド弓でも、メタルパーツとエボニー材との接着にはニカワが使われていました。

・ボーンTip材の接着前、サイズと角度、位置の合わせ。

もうひとつ考える必要があるとすれば、現在では化学物質のパーツが存在するという点です。 それらはニカワをはじいてしまい、ニカワ成分では接着しにくい点です。 例えば弓先のチップなどでも使われるプラスチック系の部品では、ケミカルグルーを使った方が接着の相性は良いです。
そのような場合には、弓本体の木材に接するエボニーライナー材との接着にはニカワを使い、プラスチック材などのチップ材とライナー材との接着にケミカルグルーを使うといった、使い分けをすることをお勧めいたします。 そのような弓の修理などに関することも、私のインスタグラム内でご紹介していますので、ご興味のある方は参考情報としてご覧になってみてください。 

現在の楽器職人たちは、100年前や300年前の楽器職人たちが対応していたこととは異なる状況下に在ることも確かです。 オールドの時代では天然物質が世の中の当たり前の時代です。 
そのようなことも考慮して現在の弦楽器環境に対応することも必要なスキルとして、柔軟に対応していける応用力も試されているようにも思えます。 それは決して日本だけのことではありません。

 

アトリエハーモニー代表 : 河辺恵一
インスタグラムアカウント : keiichi_kawabe