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いつも考えている事など。

第201回 鈴木 徹 (2020.5.5)
鈴木 徹

毎日まいにち、朝から晩まで暇さえあれば、というか暇なので考えていることがあります。
それは『自分は何故生きているのか?』ということです。

自分は今こうして職業として弦楽器の製作、修理をやっています。それは今まで生きてきた中でいろいろな選択をしてきた結果として。
この社会の中の一つの役割として楽器製作者ということをしています。それは以前、将来どうしようか、と考えていたときに、自分の目標とするところのものを実現するのに、自分自身に1番合っているのと思ったからです。
誰に言われたわけでも無く自分で選んだ道なので、大変な時もありますが苦しくはありません。

『コントラバスを作る人になろう』と決めた時、具体的にそれでは何年後にこうなろう、と言うような事はイメージしていませんでした。始めた頃はただひたすらコントラバスを作りたい、と思っていました(今もですが…)
そうしてやっていくうちに『世界を良くする』と言う自分の目標に近づく為、またその夢を実現するために、社会とどの様に関わるべきかと考えて動いていたら、気付けば今の様な自分になっていました。

その中で、例えば勉強するのにも何かをする時にも、いつも心掛けていることがあります。
それは大学時代の先輩がある時「何かを学びたいなら、その世界のトップを見ればいい」と言う様なことを言っていたのを覚えていて、それを拡げて解釈し、何かするときは何でも『なるべく1番のものを見て、聴いて、関わろう』という事です。
なので楽器作りを学びたいと思ったときはすぐにCremona へ、と思いました。
何故なら楽器の世界最高峰は何だ?と考えるとすぐにStradivari となり、それならその人がいたところへ行くべきだ、と思ったからです。
と、言うわけでクレモナで勉強し工房を開き、自分で少しでも良い楽器を作るぞ、と思い今でも作業しています。

不思議なのはその様に思いながら色々なところへ行ったりいろんな人に会ったりしていると、思っても見なかった様な縁ができる事です。始めは小さなきっかけでもそこから大きく広がるのです。

2012年、初めてアメリカへ行ったとき、たまたまニューヨークの楽器店の人と仲良くなりました。そのお店の人とは年に1〜2回会う様な感じだったのですが、昨年いろいろなタイミングが合い、そのお店で2ヶ月滞在してコントラバスを製作する機会に恵まれました。
それだけでも充分良かったのですが、作ったコントラバスをJazzのベーシスト、Ron Carter氏が気に入って、ライブで使ってもらえました。そしてまた、現代Jazz bass界のトップベーシストJohn Patitucci 氏まで同じく私の楽器を選んでライブしてくれると言うことも起こりました。

Ron Carter氏と。Ron Carter氏と。

 

John Patitucci 氏、Jeremy McCoy (metropolitan opera 副首席私の楽器を使っています)John Patitucci 氏、Jeremy McCoy (metropolitan opera 副首席私の楽器を使っています)

また別のきっかけではドイツの学生からメールが来て、私の楽器を試奏したい、と言うのでベルリンまでコントラバスを持って行ったら、彼の先生がベルリンフィルの首席奏者との事で、彼にも試してもらうと気に入ってもらえ、コンサートなどで使ってもらえる、と言う様なことがあったりもしました。

Esko Laine 氏、Matthew McDonald 氏と。Esko Laine 氏、Matthew McDonald 氏と。

こう言うことがあって思うのは、何か抽象的なものであっても目標を立てて、それに向かって一生懸命やっていると、自ずとその目標に近づける様になるのかな、ということです。

もちろん良いことだけでなく、反対の思いがけない事(ミラノの駅で100万円スられたり、火事にあって工房を焼け出されたりecc..)もありますが、そういう事であっても、これでまた色んな経験ができて、作る楽器の音に深みが増すかも、などと思って嬉しくなったりもします。

日々色んなことが起こり、色々と状況が変化しますが今自分に与えられた役割はこれなんだな、と。
それに、こうなる様に選択したのも自分なんだ、と思い生きている毎日です。

こうして書いてみるとはじめの『自分は何故生きているのか』ということを理解するきっかけが見えてきた様な気がします。

最後に自分が忘れない様にしようと思っていることを書き出して、作業台のところに貼ってあるものを付け加えておきます。