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「旅するパガニーニ」──200年前の“スーパースター”の素顔

第329回 やち陽子 (2025.11.20)

先週クレモナ国立図書館で開催された出版記念イベント《In tournée con Paganini(パガニーニと旅して)》に参加しました。
本書はドイツ人ジャーナリスト:ゲオルグ・ハーリーズ(Georg Harrys)が当時6年間にわたってヨーロッパツアー中だったパガニーニに6か月密着取材した手記です。
今回音楽学者アルテミオ・フォケル(Artemio Focher)氏によるイタリア語版が発売され、彼へのインタビュー・朗読劇・そして私たちMAGMAmusicaの弦楽アンサンブルでパガニーニの曲を演奏するという内容でした。

 

朗読されたのは、パガニーニとともに旅をした人々──秘書、助手、評論家、あるいは一時的な共演者などの記録や手紙。
華やかな舞台の裏で、楽器のコンディションに細心の注意を払い、体調や旅程に気を配りながらも演奏に命をかけていた、ひとりの音楽家の姿が静かに浮かび上がります。

 

一般的には、「悪魔に魂を売って超絶技巧を手に入れた」という伝説で語られることの多いパガニーニ。

 

けれど実際には、旅先の孤児院や困窮する音楽家(ベルリオーズもその一人)に惜しみなく寄付を行うなど、深い慈愛に満ちた人物だったことも、文献を通して伝えられます。
そこにあるのは、虚構ではなく、音楽に生き、音楽を通して人と社会に向き合おうとしたひとりの人間の姿です。

パガニーニがその生涯を通じて求め続けた“音の表現”と、それを支えた楽器との関係は、私たち製作者にとって今なお学ぶべき点が多くあります。

そのような想いを胸に、
関西弦楽器製作者協会有志による完全予約制展示会を今年も12月10日(月)〜14日(土)開催いたします。

各製作者が手がけたヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが一堂に会し、1組のお客様だけで約1時間、ゆっくりご試奏いただけます。
また私ども製作家との対話を通じて音や楽器への理解を深めていただける貴重な機会です。ご興味のある方は、ぜひお誘いあわせの上、お越しください。