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赤モミの産地をたずねて

第112回 三宅 広(2016.02.05)

北イタリアにフィエンメというところがあって、そこがバイオリンの表板材になる良質の赤モミの産地であるということは前から聞いて知っていたし、実際にフィエンメ材を使って楽器を作ってもいたのですが、そのフィエンメがどのあたりにあってどんなところなのかは全く知りませんでした。2015年11月、そのフィエンメに赤モミの伐採現場を見学に行くというクレモナの製作者数名のグループに同行させてもらいました。

クレモナからヴェローナを経て3時間半ほど走ったイタリア北東部の、オーストリア国境に近いパネヴェツジョというところがその現場でした。ヴェローナからはずいぶん登り坂だなと感じていましたが、着いてみるとドロミテ山塊の荒々しい岩山がすぐそこに見えていて、寒かったことなどからもかなりの標高の土地だったと思います。営林署の人に案内してもらって森に入ると、30~40メートル以上もある、まっすぐに上に伸びたモミの木が立ち並んでいてその威容には圧倒されました。

木樵の職人たちは慣れた様子で、まずこれから倒す木の下に立ってどの方向に倒すかを決め、チェーンソーで倒す方に三角形の切り込みを入れます。それから反対側にチェーンソーを入れて、半分くらい切り込んだところでもうひとりが楔を入れてハンマーで打ち込んでいきます。チェーンソーの刃が切り進むと同時に楔が根本まで入っていく、作業を始めてからものの10秒もしないうちに木は傾き、ゆっくりと倒れていきます。

樹齢200年の木でもわずか10秒で切り倒されるんだねと、一緒に行った人たちと話しました。これらの木材は、家具や建築材料にも使われるということで、楽器の材料になるのはごく一部の選ばれたものだけのようです。今まで何気なく使ってきた表板材が、ここから来ていたのだとわかって見方が少し変わったように思います。

次回は2月20日更新予定です。