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原動力

第83回 畑 亮一(2014.11.05)
畑 亮一

忘れられない嬉しい出来事が何年か前にあった。

ネックか゛入った。完成間近ネックか゛入った。完成間近

この仕事に就いてから今まで、時々ではあるが折に触れ、関東にいらっしゃる或る尊敬する職人さんに自分の作ったバイオリンを見てもらっている。
その人のいる工房は東京都内から2時間ほどもかかるのでなかなか行くことが出来ないのだが、ご挨拶がてら自分の「今」の仕事ぶりを見ていただくために時間がある限り行くことにしている。

そのひとは僕が出来たバイオリンを持って行くといつでも、忙しい時間を割いて何も言わずじっと見てくれる。何をどうせよというような具体的なアドバイスは無いが、只々見てくれる。そして「〇〇ってバイオリンこのあいだ来たんだけど、あそこがこうなってるんだよね。あれはきっと△△に関係してると思うんだ。」などといろいろと「音と形」に関して経験談を聞かせてくれる。それはいろいろな楽器を見る経験の少ない僕にとって貴重な楽しい時間だ。

一度「ホワイト」で音の具合を確認します一度「ホワイト」で音の具合を確認します

そんな彼がある時「畑君のバイオリンもようやく楽器らしくなってきたなぁ。。。今までは置物みたいだったもんなぁ。。」と感慨深く褒めてくれた。
もちろんそれまでもその人はいろいろと褒めてくれていたのだが、その時にようやく僕が「楽器としてバイオリン」を作っているとして認め、本音を言葉にしてもらえたのだと感じた。

「バイオリンの価値」はいろいろあると思うが、やはり自分としては音の出る「楽器」としての価値を最優先に置きたい。普段からそんな風に考え、製作しているだけにその時の先輩職人の言葉に「ああ、ようやく少しは進歩できたのかも。。」とすごく嬉しかったことを覚えている。

僕にとって楽器作りはとても難しい。

もうすぐ音が出ます。ワクワク!もうすぐ音が出ます。ワクワク!

年数ばかりが過ぎてゆく中、何か確実に「こうだ!」と手のうちにつかめる物は何もなくなぜだか年々、難しくなって行くような気がする。本当に途方に暮れることが多い。
「自分には向いてないのかなぁ?」「センスが足りないのかなぁ?」
などとメゲることなどしょっちゅうである。
でもこの思い出とその人のことを思い出すとそんな意気消沈した時でもなんだかワクワクとしてやる気がわいてくるのである。

 

次回は11月20日更新予定です。

次回、関西弦楽器製作者協会展示会は2018年4月22日(日)です