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インドで見たバイオリン

第64回 三宅 広(2014.01.20)

2014年はインド旅行で幕を開けることになった。
友人のインド舞踊家、Nさんから「インド舞踊と世界遺産の旅」というのにお誘いを受け、元日の朝に関空を飛び立った。
インド南東部の都市チェンナイで行われるダンスフェスティバルに合わせて、夜はステージを鑑賞、昼は世界遺産となっているヒンドゥーの寺院をめぐ るという企画である。

今回の旅のメインはやはりダンスフェスティバル。はじめてみたインド舞踊は、予備知識のない私でも十分に楽しむことができた。踊り手は、ふつう一人で踊っている。いろいろな登場人物のいるストーリーのあるものを演じているのだということで、そう思って見ているとちょうど落語家が顔の向きをわずかに変えることでいろんな登場人物を演じ分けるのと似ていて、踊り手の顔の表情などでもなんとなく理解できた。

説明してくれたNさんによれば、指の形や手の動きといったすべての動きがひとつひとつ意味を持っているので、それを理解していればインド舞踊は もっとよくわかるということだが、私自身はそこまで深い内容はわからなかった。でも踊りの美しさや感動は十分伝わってきたと思った。
踊りを見ていながらも、伴奏の音楽や楽器につい目も耳も行ってしまう。音楽は、ふつう5~6人の演奏家が舞台下手側に並んでいて、編成は次のようなものである。

太鼓、 胴長のものを膝に乗せて両側の革を手で打つ。右手は高い音、左手は低い音をだし、太鼓ひとつでほとんどのリズムを刻んでいた。

鐘、 両手に持って打ち合わせたりすり合わせたりする小さなもの。踊りが速いテンポになると、この人が鐘を打ち鳴らしながらラップのように歌い 語りして見事なリズムを表現する。言葉はわからないがその音楽にも引き込まれるものがあった。

歌、 言葉がわからないが、踊りを見ていると何を言っているのかがイメージできそうだった。

笛、 よく響く竹製の横笛 後で楽器店に行ったら同じものが200ルピーくらいで売っていて驚いた。

バイオリンはふだん私たちが見るのとは構え方がだいぶ違った。奏者は胡坐をかき、胸とあごで楽器を挟む(ここまでは同じ)、そして、スクロールの先を胡坐の足首あたりに当て、楽器はさかさまにされたような状態で弾かれていた。こんな弾き方もあるのかと驚いたが、あごと胸(肩)で支えるよりは楽なのかなとも思う。

インドでは、バイオリンはもともとインドの楽器だと思ってる人が多いです、とNさん。
まさかそんなこと、とは思ったが、バイオリンはそれほどインドには定着しているということなのだろうか。客席から舞台の楽器を見ているのではあまりよく見えないし、PAを使っているので本当はどんな音の楽器かもよくはわからなかった。
後で楽器店をのぞいてみたら、店に並んでいるバイオリンは日本では「初心者向き」といわれている程度のものがほとんど、インド独自の楽器と思われているにしてはインド製というバイオリンは見かけなかったように思う。

今回はダンス音楽だけしか聴けなかったが、西洋音楽とは違う、やはりインド独特の音楽なのだと感じた。6日間という駆け足のインド旅行であったが、市中で多くの人々に接し、ヒンドゥーの古い寺院を訪ねるなど、短時間の割にはいろいろなことができた と思う。こうして実際にインドの文化や人々に触れることができたのはとても貴重な体験であった。

次回は2月5日更新予定です。