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曲線美

第51回 清水 陽太(2013.07.05)
清水 陽太

字のまんま“曲線の美しさ“である。
楽器製作者が言う曲線美と、一般的な曲線美とはほんの少し違う気がする。
それは一般的な曲線美というものが創造的な曲線に対して使われるのに対し、楽器の曲線は作者が勝手に創造できるものではないからだ。絶対ダメ!
というわけではないが最後にヴァイオリンの形をしているかどうかは怪しい。もちろん楽器が出来上がった後の曲線美というものは一般的なその意味合いも含まれるだろう。

では、なにがちがうのだ?というと一本の線の美しさなのである。
直線に置き換えるとわかりやすくなる。直線は何処まで行ってもまっすぐで、どこかでほんの僅かに折れ曲がると直線では無くなってしまう。同じように曲線もそのカーブの中で折れたり、ほんのわずかな直線が残ると違和感を生む。しかもヴァイオリンの2次元的曲線のほとんどが曲率の違うものがつながってできる複合曲線であり、これをつないでいくことが非常に難しい。

少し脱線するが以前、木工家具職人の方と楽器を手にしながらお話させて頂いた際に言われて初めて気が付いたが、楽器にはテーブルの天板や箪笥のような直線が一切無いのでとても作るのは大変そうだというご意見を頂いた。実際には直線でなければ都合の悪い部分もあるのだが、それは接合部・接着部のみである。とはいうものの所謂バロック式といわれるネックの仕込みや、下ナットと呼ばれる緒止糸が乗る枕木はパーフリングのカーブに合わせてセットされていたので現代よりもさらに直線が少なかった。
先人が如何に曲線の集合体に直線が入るのを嫌ったかということが解る。

どんなに綺麗にコンパスを用いて製図をし、型を作っても最終的な楽器のアウトラインは目で見て整える。やすりを持つ手が間違って一削りしても、やわらかい表板がコツンとどこかに当たっただけでも簡単に曲線は破綻してしまうので結構気が抜けない。金属や樹脂、土など継ぎ足し補修が出来る素材は木目を覆い隠さない透明なニスをかけて仕上げる楽器作りからするとうらやましい。ある程度の押しつぶされた変形は復元できる木材の有り難さもあるけれど…

まだまだ数は少ないが、私の師匠名言集にこんな言葉がある。
“イタリアンがイタリアンである条件。それは人間の体と同じようにとがった部分が一切ないこと。(まぁ、人間には歯と爪があるけどね)”
である。なるほど、一切平面、直線、角がない。

現代イタリアンには特に渦巻きに平面部を用いたスタイルもあるが、
やはり一時的な流行なのかと思わせる深い言葉である。
ひとの目に、手に、感覚に優しいのはやはり直線ではなく曲線なのであろう。

タイトルにはありふれた言葉で、と思ったので曲線美としたが正確に表現するならば曲面美かもしれない。鋭い感覚を持って丸く作らなければならない、なんとも厄介な作業である。そういえば楽器に携わる仕事をしていると柔らかいニスを傷付けてしまうことがあるので爪は極力伸ばさず丸くしてある。歯を全部抜くわけにはいかないけれど。

次回は7月20日更新予定です。

次回、関西弦楽器製作者協会展示会は2018年4月22日(日)です