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バイオリンの音色

第45回 糟谷 伸夫(2012.12.05)

音色を決める要素は様々にあります。楽器においては弾いている音の倍音が主に音色に関わってくると思います。

篠笛などでは開放された指孔とその部分の管が共鳴管の役割を果たし、音色が豊かになったり直接的であったりと変化するようです。吹こうとしている音の音程を決める指孔は基本的に一つ(大甲音は除く)です。しかし、直接的には音程に関わらない開放された指孔や筒が音色の調整に不可欠なのです。
では、どのように調整をしているのか。概要だけ記しますが、おそらく任意の調の主音に対する倍音を出やすくするように指孔は配置されている必要があるようです。

移調楽器である篠笛の指孔が倍音の位置を拾うことは当たり前と思われるかもしれませんが、実際に音色(倍音成分)の調整にまで有効である指孔の配置はかなりの難作業です。ドレミの音程だけであればチューナーで周波数を確認して作れます。が、音色はある周波数単独では決まりません。楽器においては主音と倍音成分とが相関関係を持つ中で音階を展開させなくてはならないからです。
管楽器は楽器本体が音響性能を映すと前回書かせていただきました。管楽器は比較的主音に近い倍音が整うことで艶やかな音色を得ることができます。バイオリンや弦楽器に比べると、少なくともその点においてはまだ把握のしやすい構造だと言えるかもしれません。

では、弦楽器は?
おそらく複雑極まりない要素の中で美しく現れる音色に神秘の言葉を冠したくなるほどに難しい問題だと思います。全ての要素を引き合いに出し解決をみることはおよそ不可能であると思われますので、せめて2つ3つ、興味深い部分に触れたいと思います。

弦楽器の倍音を作り出す機構としてよく知られるのが本邦の代表的弦楽器である三味線に付けられている『東ざわり』といわれる機構です。東ざわりは糸にビビリを起こさせることで強制的に弦の振動を高周波域へ引き上げることをします。バイオリンでビビリは、指板に弦が触れる、板が剥がれている、アジャスターの緩み、F字孔の汚れ溜まりなど、不測の事態が起こす悪影響と捉えられます。

確かに上記のビビリは不快なものでしかありません。しかし思えばバイオリンとは、他に類をみないほどに高倍音の輝きが美しい楽器、と言われています。弦振動に高倍音を与える東ざわり、倍音の美しいバイオリン。ビビリといわれない程度のサワリを生む機構がバイオリンの中に隠れていないか眺めてみました。おそらく下記の部分が主要な候補となりえます。

駒の図駒の図

①駒の図の水色部分。
②F字孔の左右ともにその外側。
③テールピース。

①は削り取ると直接的で単調な音になってしまいます。残せば明らかに倍音を生むことが確認できます。(胴が特定周波数にハウリングすることとは異質なものだと思います)
②は製作者が意図的に薄くする部分です。特殊な高域の振動モードを持つ部分だと思われ、サワリ機構の候補となります。
③は弦同士の共鳴に対し直接的な揺らぎを与える可能性の高い部分として候補になります

①に関してはかなり効果的な結果が得られております。
簡易的なFFT解析によっても変化が歴然と見えるようですので、バイオリンの高倍音の美に対してサワリを視点に考察することは面白い結果を生むのではと期待しております。
(注:研究中勉強中の内容です。間違い勘違いあるかもしれませんがご容赦を。)

次回は12月20日更新予定です。