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楽器の傷

第43回 河村 盛介(2012.11.05)
河村 盛介

古い楽器というのは、エッジが擦り減って、ニスも所々はがれ、表面は沢山の傷で覆われていますが、それぞれがとても個性的で見ていて飽きることがありません。私は、このような古い楽器の見た目が好きで、外観を古くしたアンティーク仕上げ(オールド仕上げ)の楽器を主に製作しています。

アンティーク仕上げでは、古い楽器と同じようにニスを所々はがしたり、エッジやコーナーを丸めたりしますが、同時に沢山の傷をつけなければ、なかなか古くは見えません。一点の曇りもなく、きれいにニスが塗られたフルバーニッシュの楽器では、表面に傷がついたりすると、たとえそれが小さな傷であっても目立ってしまいます。しかし、古い楽器では、表面の傷も丸くなったエッジや一部が欠けたニスと共に一つのイメージとなり、古い楽器独特の雰囲気を作っています。このため、沢山の傷があっても、フルバーニッシュの楽器ほど気にはなりません。

アンティーク仕上げの楽器も新作楽器ですから、誤って板に穴を開けて本当の修理が必要になってしまっては元も子もありませんので、傷をつける作業は細心の注意を払って行います。でも、この作業で一番難しいのは、傷を自然に見せるということです。楽器を演奏される方はお分かりになると思いますが、ちょっとした不注意で、楽器の表面には大小様々な傷がどんどん増えていきます。これらの傷は、ほとんどが偶然についてしまったものですが、アンティーク仕上げではこれを意図的にやっていきますので、わざとらしくならないように気を付けなければなりません。

傷をつける方法には特に決まりがなく、楽器の表面を実際にひっかいてみたり、ニスの上に傷を描いてみたりと、色々な方法があります。全体のバランスをよく考え、本物の傷をまねて注意深く傷をつけていきます。しかし、同じ人間が作業しているので、よく考えれば考えるほど不自然になりがちで、時には何も考えず適当に傷をつけたりもします。うまく傷をつけると、傷が周りのニスと融合して一体となり、だんだんと目立たなくなります。そして、あるときを境に楽器がだんだんと古く見えてきてきます。この作業は、フルバーニッシュの楽器ではありえないので、難しいですが、とても楽しい作業です。

日本ではあまり一般的ではないアンティーク仕上げですが、もしお手に取ってご覧になる機会がありましたら、表面の傷などにもちょっと注目していただけると、製作者がどのように古い楽器を見ているかその一端がお分かりいただけるのではないかと思います。

次回は11月20日更新予定です。

次回、関西弦楽器製作者協会展示会は2018年4月22日(日)です