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北イタリアの小さな町より

第39回 伊東 渚(2012.09.05)
伊東ラッザリ渚

イタリア、クレモナ市街地から13kmほど離れたところに、カザルブッターノという小さな町があります。人口約4千人、30分もあれば歩いて町を一周できてしまうくらいの小さな町です。 小さいながらも町の歴史は長く、諸説ありますが1000年~1100年ころにできたそうです。

トゥリーナ家の邸宅で、現町役場の壁にある作曲家ベッリーニの肖像トゥリーナ家の邸宅で、現町役場の壁にある作曲家ベッリーニの肖像

オールドヴァイオリンでは名の知れたあのアンドレア・ガルネリも1623年にここカザルブッターノで産まれました。またロッシーニやドニゼッティーと共に、イタリアオペラを代表する作曲家のヴィンチェンツォ・ベッリーニは、カザルブッターノの貴族であったトゥリーナ家の妻ジュディッタと恋に落ち、1829年から1832年の間に何度か屋敷に招待されるかたちでおとずれ、数ヶ月にわたり滞在していました。

18世紀に建築されたノルマの塔18世紀に建築されたノルマの塔

彼はとてもこの町を気に入り、滞在中はよくトゥリーナ家の美しい庭園を彼女と散歩をしながら、インスピレーションを受けていたようで、彼女に捧げる曲も書いています。ベッリーニの代表作であるオペラ「ノルマ」の最終幕の一部分をここカザルブッターノで作曲したと言われています。今も残る、昔トゥリーナ庭園の敷地内にあった塔は、彼のオペラから名前をとって、”ノルマの塔”と呼ばれています。

そして、この小さな町に弦楽器製作者、ニコラ・ラッザリーの工房があります。カザルブッターノ、唯一の弦楽器工房です。私がイタリアに留学に来て半年ほどたったころに弟子入りをお願いしました。それから4年半、そんなこんなで今年の春に彼と入籍し、師匠兼主人となった彼と二人で工房をやっていくことになりました。

毎日工房に篭りきり、一緒に作業をしていますが、仕事はつねに独立しています。まだまだ私も修行中の身ですので、彼の指導の下に製作していますが、お互いの楽器に手を入れることはまずありません。彼は彼の楽器を作り、私は私の楽器を作ります。朝から夜までみっちり仕事をし疲れた後は、工房の下にある彼の妹夫婦の経営するバールに行って、気が置けない愉快な仲間たちと一緒に食前酒を飲みながら、つかのまのリラックスタイムをし、明日の仕事の活力にするのが習慣になっています。

カザルブッターノの教会と工房のあるリベルタ広場カザルブッターノの教会と工房のあるリベルタ広場

小さい町ではありますが、ゆったりと時間が流れ、なかなか住み心地のよい町です。クレモナへいらしたときはちょっと足を伸ばしてみてください。イタリアの田舎町の空気を感じていただけると思います。

そんなカザルブッターノで、二人で力を合わせて一本でも多くのより良い楽器を製作していきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

次回は9月20日更新予定です。

次回、関西弦楽器製作者協会展示会は2018年4月22日(日)です