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ヴァイオリンと絵画で兄弟展を

第142回 久我 一夫(2017.07.05)
久我 一夫

現在、10月31日から11月5日まで東京・京橋の千疋屋ギャラリーでの個展開催に向けアマティモデルを製作しています。世界3大名器の音を探る・・・販売目的ではなく、30余年の取組みを紹介する展覧会です。ストラディヴァリとグアルネリに加えてアマティが無いと3大名器にはならないのでアマティ無事完成に向け現在奮闘中です。今迄アマティは、3丁しか見ておりません。そのうち間近で演奏を2回聞いていますが、既に遠い記憶になっています。今その Amatiモデルを作っていて思う事は・・・・・当然ながら弟子のストラディヴァリ先生やグアルネリ先生がしていた事とほぼ同じ事を彼らの師匠アマティは行っています。なぜ同じような考え方で、形こそ違いますが、こうも音が違うのか?それだけ小さなヴァイオリンには途方もない大きな世界が広がっているのでしょう。アマティは音が小さいと言われていますがアマティによってはそんな事はありません。さてこのアマティはどんな音色になるのでしょうか非常に楽しみです。

ストラディヴァリとグアルネリそしてアマティなど4丁と資料、画家の弟とヴァイオリンと絵画で兄弟展として予定しています。いつかやってみたいとかねがね考えていました。弟の絵は、過去の未発表作品を含む個人所有の作品をお借りし展示します。弟の油絵はデルボーのような不思議な絵です。音の不思議と絵画の不思議をコラボレーションします。小さな会場ですのでどう展示するか工夫をしているところです。ヴァイオリンとそれらの型、そしてそれらを作る為の図面概要ほか展示する予定です。今迄巨匠たちの3個性のヴァイオリンを作り分けてきて彼らが何を考え作ってきたか?決して作り分けられたとは思っていませんが、同じ様な当時の製作手段を生かし作られた三巨匠楽器の音への取り組みを通し300年前のクレモナの音の世界を少しでも感じとっていただけましたらと思います。69才の節目に区切りをつける展覧会です。ヴァイオリンはコンサートで使用できるヴァイオリンで試奏も可能です。絶妙なバランスで成り立っている楽器、たった一か所の厚さが0.1mm厚い薄いで音色が違ってしまう・・・その可能性と未知の世界が表裏一体となっているヴァイオリン。同じ様な厚さ分布で、音色がまったく違って別な個性が作り上げられます。本当にヴァイオリンは不思議で魅力的で奥の深い気難しい楽器と言えます。

だいぶ前になりますが、元ウイーンフィル・コンコンサートマスターのHさんの1709年製ストラディヴァリウスを拝見しタップさせていただきました。Hさんは大変優しく好意的に協力して下さいました。裏板を中指の腹で優しくタップし耳に聞こえた音は、現代の基本と同じように振動数が合わせてありました。そしてその音を別会場で2度聞きました。現代の一般的な作り方で左右対称の厚さのヴァイオリンと同じように振動数を合わせてありました。実際の内部の厚さは複雑でまったく違いますが、左右の質量が同じバランスに仕上がっていたという事です。表も裏もそういう楽器は透明感がある澄んだ美しい繊細な音色の個性になります。厚さは複雑に入り組んだ地図のような左右非対称の状態であろう楽器でも音響的に対称に振動を合わせてありました。そして、AさんのストラディヴァリKochanski1717を拝見し同じようにタップさせて頂きましたが、このストラディヴァリはアッパーが質量が多く重い振動でした。裏板は左右は同じでも上が厚めになっていました。その音色は、情熱的な音色でした。同じストラディヴァリでも厚さの分布を変えていろいろな音色を探す様子がみてとれます。必ずしもストラディヴァリが全てそうとは限りませんが、アマティを作りながら、ここは1600年代のストラディヴァリみたい!ここはグアルネリみたいと・・・アマティの教えなのでしょうか??そう想像しながら作ると300年前にタイムスリップしたような気分がワクワクしてきます。ある時は、自作楽器で偶然発見した事象は、後にストラディヴァリとアルネリを計測した折、既300年前に師匠達が行っていたことを確認しましました、とても不思議に感じました。

ヴァイオリンは古い材料で作り即結果を出したいものですが、10年くらい寝ていれば新しい材でも、軽く強い基本的に性能が高い材を使いどうやって作るか?それが一番重要だと感じています。いかに音響的な範囲内で薄くても強く作れるか?そして楽器に長く生き続けてもらう。ストラディヴァリやグアルネリ先生たちはそうした課題について克服しています。今丁度内部を削り厚さを決めているところですが、ヴァイオリンはいかに美しく作るか?作る人は苦労しますが、内部は外見と同じように、滑らかな曲面で凹凸無しに美しく作ると必ずしも音響的に良いとは限りません。三味線やお箏の中でも高級品は内部に細かな模様の美しいキザミ目の彫刻が施されています。いろいろな模様が有りヴァイオリンとは違い内部の表面積を増やし、また複雑な振動、空気の反響なども得ているのだろうと思う。ヴァイオリン名器はそれとは異なり、別な意味で内部は凹凸です。キズや失敗にも見えるような内部処理から素晴らしい振動と音色が作られます。そんな内部は、見た目とは異なる極めてデリケートな部分です。音のために最善な状態にしたいものです。300年前の師匠達へのオマージュの展覧会は只今準備中です。

次回、関西弦楽器製作者協会展示会は2018年4月22日(日)です